ブラジル発・エシカルな飲料?!

BEBIDA ETICA

いきなりですが、みなさん!昨晩、もしくは今日食べた食物/飲んだ飲料を思い出せますか?
輸入・国産の食材、どちらも入っていましたか?「輸入品は使っていないかも」という方も、
お肉を食べた場合(国産・輸入に関係なく)、その飼料はブラジル・米国の大豆(=間接的に輸入品)だったということがあるかもしれません。

今回のエシポルでは、ブラジルのエシカルな飲料のお話をしたいと思います。
その前に。飲料・食物に関わるブラジルの農業のお話を少しだけ、お話させていただきますね。
もしかしたらその話は、「あなたが昨晩、もしくは今日食べた食物(もしくは飲物)」と関係しているかもしれません。

グローバル化する食卓の裏にあるもの
日本の23倍もの大きさを持つブラジル。そのブラジルでは、大豆、トウモロコシといった輸出のための工業型農業が近年活発化しています。それは、食卓にあがる食べ物がグローバル化している現代社会では、必然的な風景かもしれません。

一方で、こうした工業型農業に適した土地がブラジルで足りなくなってきていることと、輸出に向けた国内の輸送網の拡大に伴い、その地域に住んでいる先住民・小規模農民の土地が力ずくで奪われるということもブラジルで、今実際に起きています。当然、奪われた土地を取り返すために、抵抗運動は行われますが、その運動にかかわった人たちが殺されるということは、珍しくはないそうです。

正直、とても重く暗い事実です。ただ、一方でこうした工業型農業に代わる、もう一つのアプローチで農業に取り組む人たちもいます。そして彼らの農作物を積極的に市場へとつなげることでその動きをサポートしようと奮闘している人たちもブラジルにはいます。その1つが、KIROという飲料ブランドです。

ブラジルのローカル飲料ブランド:KIRO
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出典:KIRO

2017年、ブラジル・サンパウロで、ローカルな飲料ブランドが誕生しました。そのブランドは、「KIRO」です。
販売規模としてはまだ、大きくはないものの、サンパウロのバー、レストラン、カフェ、シェアオフィス等を通じて、じわじわと、そのファンを増やしているようです。一口飲むだけで爽やかなのどごしを感じられるKIRO。実は、KIROにはアルコールも炭酸も入っていません。

アルコールも炭酸も入っていないのにのどごしを感じられる飲料、、?一体何が入っているのでしょうか。その原料は、水、しょうが、りんご酢、そして蜂蜜です。

原料だけみると、シンプルで、健康によさそうな飲料という印象を持ちますが、KIROがパウリスタ(サンパウロの人)を惹きつけている理由は、どうやらそれだけではないようです。

たまたま見た記事を見て、作ってみたら、、、。
水、しょうが、りんご酢、そして蜂蜜。これを聞いてもしかして、「スウィッチェル?」と思われた方、正解です。スウィッチェルとは、17世紀~19世紀のアメリカで、特に畑仕事をしている人たちにとっては欠かせない、乾いたのどを潤す大事な飲み物だったそうですよ。

2014年。創業者であり、サステナビリティについて研究をしていたリーさんは、スイッチェルについて書かれた記事に偶然出会い、長年の友人であるグスタボさんと一緒にスイッチェルを実際に作ってみることにしました。「その記事を見るまで、もちろん、スイッチェルなんて作ったことも飲んだこともなかったよ。けれども、最初の一口でやられてしまったんだ。」と語るリーさん。その年に何度も何度も試作を重ね、家族、友人を巻き込みながら品質・味の改良を重ねていきました。

次第に、グスタボさんが働いているレストランでKIROを提供することで、家族、友人以外にもそのファンを増やしていったようです。

新たなメンバーも加わり、以前より販売規模を広げていったKIROは、2017年にビジネスを本格化させ、サンパウロの中心地やリオデジャネイロでも販売されるようになっていきました。なんと生産量の内9割は売れ、残りの1割はイベントで使うための試飲用などに使われるそうです。気になるそのお値段は(KIROのサイトで購入した場合)、1本(300ml入り)約¥240です。(9レアル)
決して、安くはない値段ですが、何がパウリスタ(サンパウロの人)を惹きつけているのでしょうか。

エシカルな飲料?
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KIROが特別な飲料である理由は、渇いたのどにキリッとしたのどごしをもたらせてくれている「しょうが」にどうやらそのヒントがあるようです。それは、そのしょうがが、化学農薬・化学肥料といったものを使わない製法で栽培されているということ以外にもう1つあります。それは、アグロエコロジーというアプローチが用いられているということです。

アグロエコロジーとは、生態系を守るエコロジーの原則が農業に適用されたものと言われています。

その特徴の1つは、自然の法則を積極的に活用するということが、挙げられます。例えば、「薬草、植物を植えることで害虫から作物を守る」という例のように、化学農薬・化学肥料を使わずに、自然の法則を活用しながら栽培する方法は、その一例です。

ところで、化学農薬・肥料を使わないということは、人(生産者・食べる消費者)だけでなく、今進行中の気候変動問題に対しても大きなメリットがあるのを知っていましたか?

それは、土壌菌が健康的である豊かな土壌は、炭素をしっかりと吸着してくれるので、気候変動問題の重要な救世主になってくれるということ。それに、化学肥料・農薬に頼らないということは、化石燃料に頼らないということでもあるということです。(化学肥料・化学農薬は、化石燃料なしには製造できないそうなので、持続的なアプローチとは言えませんね。。。)

KIROは、主原料のしょうがをアグロエコロジーを実践している組合から購入していますが、プレイヤーが、世界の主流である工業型農業ではなく、小規模生産者であることもアグロエコロジーの特徴の1つです。そして、アグロエコロジーでは、小規模生産者の主体性とその地域の文化的なアイデンティティ(例えば、その土地の気候にあった、且つ在来種の農作物をつくる等)が尊重されます。そういった意味で、オーガニック栽培にプラスして、社会的な側面も持ったアプローチといえますね。

「アグロエコロジーを取り入れるという事は、他の商品と差別化することができます。一方で供給量・ロジスティック面からいうと正直、不安定な要素があることも事実です。」と語るリーさん。では、アグロエコロジーを取り入れた製品を作ることは、KIROにどんな意味を持っているのでしょうか。「KIROが誕生した理由の一つには、アグロエコロジーを普及させるという目的がありました。健康的なもの(飲料)をただ作るだけでは、不十分です。今、私たちが抱えている問題に向き合うこと。そして、それに対してできることを模索していくという事はとても大事なことだと思っています。」

グローバル化する食べ物とその裏にある見えない影。
巨大化した工業型農業が広がる中で、彼らの挑戦は、今、始まったばかりなのです。

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参考文献:
・印鑰智哉著、小池洋一・田村梨花編『抵抗と創造の森アマゾンー持続的な開発と民衆の運動』(現代企画室、2017年)
・印鑰智哉:http://blog.rederio.jp/archives/2799
・THE GUARDIAN:https://www.theguardian.com/environment/2019/feb/20/european-farms-could-grow-green-and-still-be-able-to-feed-population
・SOIL ASSOCIATION:https://www.soilassociation.org/what-we-do/better-food-for-all/transforming-the-way-we-all-farm/an-introduction-to-agroecology/
・BUSINESS INSIDER:https://www.soilassociation.org/what-we-do/better-food-for-all/transforming-the-way-we-all-farm/an-introduction-to-agroecology/
・MONGABAY:https://news.mongabay.com/2018/12/amazon-soy-boom-poses-urgent-existential-threat-to-landless-movement/


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