知られざるサステイナブルな島~ポルトガル・アソーレス諸島~(後編)

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サステイナブルな工房
前回は、クレサソールが運営しているサステイナブルなレストランをご紹介しました。
あれから、1年以上が経ちますが、レストランで食べた味が懐かしく、日に日に恋しくなってきています。。

さて、今回はクレサソールの認証マークを獲得している工房をご紹介したいと思います。
ここは、工房とショップが隣接しており、アリスカという名前で活動をしています。

このアリスカでは、8名の職人さんが働いていて、私が訪ねた時は3人の職人さんが黙々と工房で作品を作っていました。工房の中には、陶器やアクセサリーを焼く大きな窯があり、職人の方が一つ一つの工程を丁寧に仕上げていく姿を見ることができました。
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アリスカの最大の特徴は、そのミッションにあります。それは、薬物に手を染めてしまった人たちを社会から排除するのではなく、彼らが社会復帰できるようにキャリアの面からサポートしていこうという点です。実際にここで働いている職人は、薬物依存の経験があるものの、社会復帰を目指し、日々職人としてのスキルを磨いています。

身近な課題/問題と向き合っていくということ
アリスカを訪れたときに、私の中で何かがモヤモヤとしていました。
というのも、ここで出会った人々が持つ「穏やかな表情」と、「薬物」という2つの事実がどうしても結び付かなかったからです。

そこで、このアリスカの責任者であるジルさんに、その気持ちを正直に話してみたら、興味深い話をしてくれました。

「そもそも、なぜアリスカができたかを話した方がいいのかもしれません。アソーレス諸島は、今では酪農、漁業といった分野だけでなく、観光業にも力を入れ、島として少しずつ経済発展を遂げています。

ですが以前は本当に貧困が深刻で、こうした危機的状況から逃れるために北米やカナダへ渡った人(*ちなみに、カナダ人の有名歌手:ネリー・ファータドは、カナダ生まれですがルーツはアソーレス諸島にあるそうです。)や、中には不法移民という手段を選び海外へ渡ったものの、強制的にアソーレス諸島へ送還された人も少なくはありませんでした。

彼らの中には北米で生まれ英語圏で育ったがために、ポルトガル語を喋れなかったり、また、アソーレス諸島の社会に上手くなじめずに精神疾患をわずらい、中には薬物依存に陥る人々もでてきました。つまり、貧困や薬物依存というのは、アソーレス諸島の社会問題の1つで、その問題と向き合うためにこの活動が始まったのです。」

社会と薬物依存
アリスカを訪れる前日に私はとある観光ツアーに参加したのですが、(偶然なことに、ツアー会社の創業者は、クレサソールのローカルビジネス支援プロジェクトを受講し、このビジネスを始めたそうです。)その創業者兼ツアーガイドが私に言った言葉をちょうどその時、思い出していました。

「私は、数年前にカナダに数か月滞在したことがあるんです。でも、やっぱりここが好きだから戻ってきました。のどかですよ、ここは。それに、人の数より、牛の数の方が多い場所なんて信じれます?

もちろん、問題もあります。そうだ、せっかくここに来たのだから、良いところだけでなく悪いところも、あなたに知ってもらわなくっちゃ。この島の中心地にはもう行きました?中心地に行けば、残念ながら昼間でも薬物を使っている人々を見るかもしれませんね。それに、最近私が気になっていることは、人々のスマートフォン中毒です。それによって、人と人とのつながりが希薄になっている気がするんです。

だからね、私は最近、友人と集まるときは、こんなルールを提案しているんです。それは、みんなの携帯を一つのテーブルに集めて、一緒にいる間は携帯を触らずに、会話に集中するっていうね。」

彼女が語ってくれたこと。そして、アリスカのジルさんが語ってくれたアリスカが誕生したきっかけ。
薬物依存と人/社会とのつながりの希薄化は、もしかしたら無関係ではないのかもしれない、、ということが
ふと頭をよぎりました。
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アリスカを案内してくれたここの責任者のジルさん

ジルさんは、一瞬フェルナンド・ペソア(ポルトガル出身の詩人)を彷彿とさせるような雰囲気の持ち主で、とても熱心にアリスカのこと、そして、ここで職人が作っている作品について語ってくれました。また、近年アリスカとして力を入れているというソーシャルマーケティングについても語ってくれました。1点私が気になった点が、アリスカの立地です。

中心地/観光スポットから少し離れたところにあるので、ショップに中々人が来ないのでは??と思ったのですが、
ジルさんに聞くと、近くのホテルと連携し作品を卸したり、SNSやメディア使い宣伝広告しているようですので、
それを聞いてなんだか、少し安心しました。

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出典:ARRISCA

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廃材を有効活用したベッドのフレーム

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認証マークとアリスカで作られたピアス

ところで、ここでの売れ筋商品は何だと思いますか。それは、廃材を有効活用したベッドのフレームや、椅子です。もともとは貨物等を運ぶ際に使用するパレットでしたが、それらを捨てずに、見事に有効活用したのが、アリスカの家具です。素敵なアイデアですね。

最後に、ジルさんにこんな質問をしてみました。
「この仕事を行っていく中で一番困難な事って何でしょうか。」
ジルさん「人々の偏見を取り払うことに一番苦労を感じますね。
決して偽善的なきもちで我々の商品を買ってほしくはないし、お客さんには商品に魅力を感じるからという理由で買ってほしいですね。」

その言葉は、ジルさんがアリスカの商品に対して確かな自信を持っていることを
伺わせるものでした。

キリスト教の影響を受けながら島独特の文化を形成し、その文化がまだ息づいているサンミゲル島。サステイナブルな社会というと難しいように感じられますが、今回の訪問で、私の中で改めてサステイナブルな社会について
再考することができました。
それは、環境になるべく負荷を与えない生活を送ることも、受け継がれる伝統文化を守り抜き継承していくことも、身近にある社会的課題と向き合っていくこともサステイナブルな社会を作っていく上でどれも、大事な一歩であるということ。

そして、そこに夫々が持つ知恵やアイデアが加われば、一体どんな未来を作れるだろうということを想像し、帰路につくことにしました。
BOY AND GIRL

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